2016年8月8日月曜日

いつの日か夢みてたの

どんなにあんたにかっこつけたって
どんなに君の前で綺麗事いったって

 結局ぼくは
昼間はただのフリーター
ウェイターじゃ意味がない
客の奴隷だ
バイトしなきゃ生活できないし

だれがどうみても格好のつかない
情けない男であって

ひとりでバンドで
ひとりでTHE安全ピンだ
とかいい吐いて
まくらは遠い街にいったし

結局あの娘を傷つけたりしたし
もう2度と会えないかもしれないし
だれひとり守れなかったし
家賃は払えず滞るし
ノルマは払わなきゃいけないし
バンドメンバーは見つからないし
ビアガーデンで飲むような
金も時間もないから
急いでベンチで缶ビールを飲んでるし

汗だくで自転車を漕ぐ
ギリギリにタイムカードを切る
愛想笑しながら謝る
パートの人たちに
誰かの目を気にしながら
社員の目を気にかけながら
明日のライブの告知を
Twitterに書き出す

掃除しにいくふりで便所にいく
鍵をかけてそのまた次のライブ告知


朝と夕方の気温しかしらないまま
冷房の効いた休憩室を後に

缶ビールを2本飲んだところで
ベッドに飛び込む


君のことを想ったり
明日のことを考えたり
未来のことを想像したり
過去のことを振り返ったり
しながら眠れば

あっという間に朝で

汗だくで自転車漕ぐ

ところからまたはじまる


バイトさきの高校生の女の子が

あずまさん
バンドやってるんですよね?
すごいです、かっこいいですね

って言ってきて


なんていうかぼくは慣れていた
そういう風に上辺でいわれたり
簡単な話題作りにされることを
よくあったし慣れてた

そんなことないよ別に
かっこよくなんてないよ

と返した

いつものようになんとなく
当たり障りなく
何も触れられないように返した


すると彼女から
今までとは違う返事がかえってきた


わたし歌手になりたいんです


といってきた

ぼくは内心少しだけ驚き
なんだか感動して
それでもバレないように返事をした

そうなんだ、なんか
ライブとかしないの?

って聞いたら

緊張して無理なんです
自分に自信がなくて
オーディションにもライブにも
でれないんです

そんな風なことをいっていた

だから人前にたって音楽やってる人が
すごくかっこいいんです

おれはうたはうまくないしめちゃくちゃだし
君が気にいるような音楽じゃないよ

といったら

それでもステージに立ってることが
すごいんですかっこいいんです

ってそんなことを言われた

おれはなにもいえずに

やればできるよ
やりなよ
音楽が好きなんだったら
歌手になりたいなら

それしかいえなかった
そんな当たり前のことしか


彼女はそんなつもりはないんだろうけど
ぼくはなんだか勇気づけられた気がして恥ずかしくて嬉しくて
彼女のことがとても愛おしくなった



それぞれの理想や夢や寂しさを
抱えて彼女は生きていて
ぼくは少し恥ずかしくなって
家に帰って行った


悔しいんだよ
毎日毎晩悔しいよ

うたをうたいはじめてから
ずっとずっとずっと
悔しいよ、ぼくは

時に誰かに馬鹿にされたり
時にガラガラのライブハウスだったり


それでも
大好きで楽しくて仕方なくて
ギター持ってうたってきたんだ
大好きな先輩もいて
可愛い後輩もできて

でもおれなんもできてない
なんも成し遂げられてない
親に見せる顔がない

ただステージにたって
うたってるだけなんだ

そんなのだれでもできんだ
ねぇ、君にも別にできるんだよ
とっても嬉しかったんだけど

できるんだよ絶対
もしかしたら君の方が
よっぽどお客さんも呼べるかもしれん


とかなんとか考えながら
いつだってぼくは
ステージに立つことを夢見てる

大きいや小さいは関係ない
全然関係ない

どうでもいい

今もぼくはあの時と同じ
ましてや君と同じかもしれない
違うかもしれない
いや、圧倒的に違うんだけど
それでもいつか
ぼくもステージに立って
歌いたいと思った日から
ずっとずっと
今日まで
バンドをやりたい
ってそれだけを考えてやってきた

きっと明日は
きっと来月は
きっと来年は

毎日そんなことばっかり考えてた
答えのない日々を手探りしてる


夢みてるんだよ
いまもまだ
これからもずっと


暑い日が続きますが
君がゆっくり
気持ちよく
眠れますように

明日も明後日も
ずっとずっと
生きられますように


ぼくはなんにも諦めません

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